The Great Escape (3)

The Great Escape (3)
荒木田慧の詩集 エッセイより
(2から続く)

それは旧日本軍の将校のホルスターだと
お婆さんは言った

中国から映画をとるのに依頼が来て
10個それを作って送ったら
むこうが欲しかったのは一般兵のやつで
送り返されて来た
それらしい

送り状の品物名にガンバッグって書いたら
全部中身開けられて調べられた、
と言ってお婆さんはわらった
「銃なんて入ってるわけないのにね」
「入ってたら素直に書くわけないのにね」

わたしは昼下がり
その乱雑な店先で
とても平和でしあわせだった

(これだれがつくったの)
ー手先の器用なひとが
(その人はどこにいるの)
ーその人はもういない
(亡くなったの)
ー............

いろんな国を旅した叔父さんは
それをじょうずに値切ってくれた

「おつりの札がない」
と言って
お婆さんはお札をつくえに放り出したまま
向かいのお店へ行ってしまった
わたしたちはその札と品物をつかんで
立ち去ることだってできたが
そうはせず
育ちのいい猫のように
お婆さんが戻ってくるのを待った

「お父さんに買ってもらっていいねえ」
とお婆さんは笑ったが
わたしはそんな年齢ではないし
このひとはわたしのお父さんでもなかった

「大切にします」
と手を振る

(向かいの古本屋のお婆さんの声
「学校も政治もおんなじよ…」)

空のホルスターをたすきがけし
浅草をゆく
「ちょっと歩いてごらん…」
「振り返って…」
「いいね…」

浅草地下商店街
日本最古の
日本一きったない商店街

入ったらすぐ
アダルトDVD300円の文字

わたしはそこの
700円のバーバーで
伸びて来た髪を切った

(さよなら
ホットペッパー
ビューティー!!
永遠に!!!)

いかがわしい店内
ちょうどいいボリュームで鳴るラジオ
待合のポルノ雑誌
「雑誌を持ち帰らないでください!」
「匂いや衣服のヨゴレのひどい方はお断りする場合があります 残念ですが他のお客様のためです」

いかつい前髪の小母さん
(ちょっとマッシュっぽく...)
「......?」
(全体的にみじかく)
「......」
チョキチョキ
「今日はここまで」
(.....えっと、それはどういう…)
「1ヶ月か1ヶ月半後にくればもう少し切れる
右と左で長さがちがうみたい」
(わたし じぶんで きってたから...)
小母さんは微笑む
礼を言い
コインで700円
ちょうど払って店を出る

叔父さんとわたしはうどんを食べたくて
駅ビルの上のレストラン街へ行ったが
わたしたちの食べたいうどんは
そういうのじゃなかった

また浅草地下街へもどり
入り口の汚い立ち食い
かけうどんに
生卵サービス
おなじのを2つ
店のおじさんはわきまえていて
「女性に先に」
とカウンターごし
わたしに先に丼を寄越した

特急にのり
浅草からふるさとへ


ついた駅前

気温は体温と等しく
わたしは世界と自分との境目がわからず

迎えを待つあいだ
衝動をおさえきれず
あちこち歩き回るわたしに
叔父さんは

「拳銃さげてパトロールかい」

そう言って わらった

世界一平和で
世界一しあわせな夕暮れ

迎えに来た母は
わたしの700円の頭をみて
藤田嗣治にそっくりだと言ったので
わたしも また うれしくて わらった

(完)









2018年5月25日

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