風呂で髪を切る

風呂で髪を切る
荒木田慧の詩集 生活の詩より
排水口のネット
コンビニの袋
100均のハサミ

それだけ

裸になり
プラスチックの椅子に座って
水垢のとんだ鏡を覗き
ザクリ、とはさみを入れる

(頭に小さな鰐が噛み付く)

どんな髪型になるにしろ
どうせ誰とも会わないし
会っても誰も気づかないだろう

(迷わずに済む)

このばらばらの頭で
以前だいぶ無理をして通った
代官山や表参道に行ったら
あの繊細な美容師たちは
あきれるだろうか

(ストイックな彫刻家たちは
子供の粘土遊びを嗤わないかもしれない)

気が済んで
(気に入らなければ明日また切ればいいし)

排水口に溜まった髪の切れ端を集め
(針のような)
数分前まで私だったそれを
コンビニの小さな袋に入れ
風呂場を出て
台所のゴミ箱にすてる
(口を縛りもせず)

(もし 人間の髪 というものが
植物の花びらのようにきれいだったなら
この作業はきっと
さぞや美しいものであったでしょう)

みっともなく伸びた髪から
みっともなく短い髪になった

翌朝

鏡の中で前髪が足踏みしていたので
私は思わず
笑ってしまった









2018年4月22日

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