The Great Escape (2)

The Great Escape (2)
荒木田慧の詩集 エッセイより

(1から続く)

公園のどこかから聴こえる
不自然なうたごえ
不自然なメロディ

「◯◯◯◯◯ こころの 我が主イエス」
「◯◯◯◯◯ こころの 我が主イエス」

張り付いた笑顔で
躁病のようにおどる人々
その前に座る
数十人の野犬の群れ
多くがキャップをかぶり
浅黒い肌で
垢じみた服をきて
ステージのうえの狂騒を
餌を待つ野良犬のような
ぎらついた穴のような黒い目で睨んでいる

かれらは祈りじゃなく肉がほしいが
祈りを聞けば肉がもらえるので
冗長な祈りが終わるのを
まだかまだかと待っている

わたしはその強烈なコントラストに
肚の底からの笑いと
激しい目眩を覚える

!!
地獄の門がひらいた
この世では
神でさえ
タダ飯は食わせない
!!

スケッチブック 置いて来ちゃったから
藝大なら売ってると思って
構内入ったけど
どこに売ってるかわかんなくて
出てきた

おしゃれなコーヒーのワゴン
とっぽい学生たち

まださっきの歌が聴こえる

私はアカデミックな
洗練された
ノリのきいたシャツみたいなものより
彼らの垢じみた
獣くさい
ぎらついた眼のほうに
力強い美しさを感じる

(ああ 彼らと今日のわたしと
いったい何がちがうというのだろう)

藤田嗣治のポスターがあって
みたかったけど
UPCOMINGだった

「自由になる金が 2〜3000万 欲しいね…」

アメ横で回転寿司
ビールとコーラで乾杯
「離婚前夜に…!」
叔父さんは私が結婚した後
会うたびに訊いた
「いつ離婚するの…?」と

(叔父さんは私の知らない間にロシア人と
次に私より若いルーマニア人と偽装結婚し
どちらもすでに別れているが
2番目の女の子とは今でも仲が良いと自慢した
わたしは
「それははじめから愛がないからだよ」
と言ってやった)

叔父さんは今日は嬉しそうで
「ケイちゃんは結婚には向いてないよ
躁鬱病のひとは結婚なんかしないほうがいい...」
と言った

「自立しなよ。財布置いてきたっていうのがいいね。象徴的で…」
と褒めた。
「●年もタダ飯食えてよかったじゃん…」

それから
「アメリカの大学生もたくさん自殺している、可哀想に…」
と言うので
私は彼らが飲んでいたかもしれないビタミンPの話をした

「牛や豚を殺して毎日生きている人がいるんだ…」
「肉が食べたきゃ自分で育てて自分で殺さなきゃ…」

「デパートのトイレでも行くか…」
上野松坂屋の
タイムマシンみたいなエレベーター
「運だめし...」
と言って5階のボタンを押すと
そこにはちゃんとトイレがあった

浅草に移動し
「無神経じゃなきゃ
生きていけないよな…」
お金がたりないので
セブンイレブンのATMでおろす

叔父さんはそのセブンイレブンが
前回来た時に行った支店と違う
ということに異常にこだわり
前に行ったセブンイレブンを
確認したいと探していた

(この強迫神経症の叔父さんには
変なこだわりがあって
ふだんの行動
行き先 ルート タイムテーブルみたいな
自分で書いたカードがあって
そのとおりに行動しているらしいが
わたしにもそのカードを作れと言うくせに
わたしに叔父さんのカードはぜったい見せてくれない)

わたしたちは質屋を探していた
わたしは楽器を持ってこなかったから
質屋で
金欠ミュージシャンの
汗と涙と呪いの染みた
ギターかウクレレがほしかった
でも質屋はみつからず

伝法院通り
ふきや
軍服のふきや

その汚い店先に吊るされていた
ガンバッグ
本革のホルスター

それに吸い寄せられて行った

わたしは なめらかでごつごつしたそれに
鉄くさい暴力の代わりに
ボールペンやメモやクレヨンを入れたら
きっとすごくすてきだろうと思った

!!!!!銃の代わりに
ペンを執れ!!!!!
!!!!!言葉という名の
弾を撃て!!!!!

店先の小さなお婆さんは
それは旧日本軍のホルスターだと言った

「ケイちゃんは中身のほうがほしいんだろ…?」
と言って叔父さんはわらった
(ほんとうにこの人はわたしのこと
よく知ってる)

黒いのは本物で
ほんとうに拳銃が入ってたやつだったが
下に穴が開いてて
これだとわたしのペンは落ちてしまうので
茶色いレプリカのほうを手に取った

(3へ続く)









2018年5月25日

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