点滅する恋人(Ⅱ)

点滅する恋人(Ⅱ)
荒木田慧の詩集 恋愛の詩より
(つづき)


液晶、明滅。
メッセージ通知。

from:飛行機の距離に住む恋人

「今朝かなり深い離人に遭遇して未だ違和感戻らず。今日産まれたみたいな感じが続いてます。記憶を確認することに終始しているんですが、自分に色々説明しているようで不思議です。」

「記録はちゃんと残ってます。話したことも思い出せますし。ただ自分っていう実感がないです。家族の顔をみても、あーこの人たちが家族かっていう感じで。これまで本当に自分は自分だったか?っていう感じが点滅するように残ってます。」

「うまく言えないけど、この人(僕)はあなたを好きっていう設定なんだみたいな感じで、そのことをとても申し訳なく思います。あなたとの過去のやりとりをザッと読んでみると、記憶はちゃんとありますが、臨場感だけがぽっかり無い。とても残酷なことを言っているという自覚はあります。本当にすみません。」

彼と初めて話をしたのは4か月前だった。
私たちはまだ会ったことがない。

何度目かの電話のとき、ひとりになることについて私は話した。
20歳の頃、一人で歩いた知らない国で感じたこと。
新婚旅行でさえ、一人になりたくなったこと。
「人といると、感覚が鈍るように思うんだよ。何かと出会って感じる時、受け取れるものが、二人でいると半分くらいになってしまう」
彼は答えた。
「いや、もっと少ないんじゃないですか。4割とか、もっと。」

私と彼の夢は似ていた。夢というよりは予定で、希望よりも切実な嘆願だった。二人一緒でもできることだが、私たちはそれを一人でやらなければならないと知っていた。ひとりきりで、それぞれ。


彼が子供の頃から感じているその感覚
それは離人と呼ばれる症状だと
教えたのは私で

「よくわからないですけど、離人の感覚、皆死ぬ時に味わえるんじゃないかなって気がしてます。」

9歳で初めて起こって以来の威力だという
大きな離人
その前日
彼から届いた
電気毛布の熱だけは確かで

(これまで本当に彼は彼だったか?)

私はその熱や
彼の言葉や声や
確かにみえるものの輪郭を
指先で何度もなぞり辿る

(感情は記憶することができない。)

だとしても
記憶を頼りに
思い出すことは
できるのではないかと

(それは希望というより切実な嘆願で)

群れたり人と馴れ合うのは嫌なのだと私は言ったが

(馴れ合えるはずがない、そう構えるなよ。)

群れたってひとりでいることはできる

(孤独にならなくていいんだってさ。孤独性じゃなくて単独性、ロンリネスじゃなくてアローンネスなんだって。)

感情を忘れて
生まれ続ける彼は
私の知っている
誰よりもひとりで
彼と生きていたいのなら

( I should be alone. )

私は ひとりに ならなきゃ いけない。

シンディ・ローパーも
クリシュナムルティも
私にそう言ったのだし

(ひとりきりで、それぞれ。)



(完)









2018年10月26日

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