雷鳴

雷鳴
荒木田慧の詩集 生活の詩より



19時、面会時間の過ぎた市民病院の7階
談話スペースの誰もいないテーブルで
私は母の担当の看護婦を待っていた

見晴らしの良い大きな窓の外では
刻一刻と夜が濃くなってゆく

紺にピンクが流れ込む空の遠くで
まばたきのようなかすかな閃光が
ひとつ、ふたつ

少し遅れて
子猫が喉をころがす

若い、はじけそうな二人の看護婦が
もつれるようにして窓の方へ駆け寄る


みて、空、すごい色

かみなりだあ

雨が来る前に帰らなくちゃ

おお、やだやだ


二人が立ち去った後
入れ替わるようにして
細い肩を入院着につつんだ
白髪混じりの初老の女性が
ふわふわとした足取りでやって来た

窓に張り付くように顔を寄せ
ひとり呟く


わあ、きれい…

あそこは、●●町のほうかしら…


やっと担当の看護婦が来て
みじかい話が終わる頃
まばたきは徐々に激しく窓に近づき
唸りはそろそろ虎のようで

エレベーターで1階に降り
夜間出入り口から車寄せを抜け
駐輪場で水色の自転車のかぎを解く

坂道

勢いよく自転車を駆る
私の左目の端で
生と死が明滅した

私は雨に打ってくれと願った

直ぐに空がそれに応えた









2018年7月16日

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