ニプレス

ニプレス
荒木田慧の詩集 生活の詩より
着の身着のまま
飛びだして来たから
下着もなにも
もっていなくて

近所のファッションセンターで
ニプレスを買いました
(そこはしまむらですらなくて)

むかし一緒に働いた
ベンガルトラみたいな猛々しい女が
「わたしはブラなんかしない」って
教えてくれたことがあって

金もないので
ブラよりだいぶ安いそれを買い求め

叔父の家に帰り
箱を開け
透明なプラスチックの容器のまま
テーブルのうえに放り出しておいた

それを見た叔父は
わたしのふたつのニプレスを
シリコン製の
はだ色の花びらのようなそれをみて
隣のうちの小母さん
おせっかいな小母さんが持ってきた
生菓子かなにかと勘違いして
あやうく!
冷蔵庫に入れるところだった

ふたりで大笑いしたあとで
わたしは想像する

冷蔵庫の低いうなりと
ランプのきえた霊安室で
ひんやり眠る
わたしのふたつの乳首を

ねりきりのようにふっくらと
すあまのようにやわらかいそれを
目を閉じて死んでいるそれを

ブラなんていらない
本当はニプレスも

子供なんていらない
男なんていらないから









2018年5月28日

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