在宅

在宅
荒木田慧の詩集 生活の詩より
「今日は家にいろ」
と言い置き男は出ていった

私はベッドに戻り
じぶんを
442ヘルツの
A音に合わせてから

床に散らばった徒労をあつめ
(仮)マークをマジックで書く

洗濯機が歌うからあけたら
間違いがあったので
もう一度まわした
(地球にさえ やさしくできない)

部屋中の床という床
なめるように掃除機をなぞらせ
(猫ならケヅクロイ)

ふと姿見
うつった私は34で
顔も身体も
少々くたびれた輪郭をしていて
でもどこか
瞳のおくに
蠱惑みたいな色がひかっている
私はその色について
16のじぶんに
手紙を書きたい

ことあるごとに
コーヒーをいれるのだが
最後のひとくちが飲みきれず
くちに含んだはいいが
内臓はNOだという
黒を吐き出す
うすぐらい台所の手水舎
呪いのような祈り

読みかけの本
描きかけの絵
弾きかけのギター
書きかけの詩が

我か我かと

ああ
洗濯機がまた歌うので
私は萎縮したそれらに自信をもたせ
ベランダに干す

本日は晴天

Winstonののこり
泥水みたいなコーヒー
アメリカのキタナいおじさんが書いたもの
良い音楽

そういった本当のものだけえらんで
遊牧民のようにベランダへ

折りたたみ椅子
写生用とキャンプ用の
背の高いほうをテーブルに

せまくて高い書斎

空はみどりで
太陽はダルそう
隣家から蒼がこちらに手を伸ばしている

たばこを何本か吸う
詩を読む
(クロッキー帳とペンをわすれた)

洗濯物がたばこ臭くなって
男にどうこう言われたら
隣の感じのいい女の
付き合ってる男に罪を着せよう
(いつも悪いのは男)

そんなことかんがえていたら
姉がくれた
紺の綿のスエットパンツ
気に入りのそれに
たばこの灰がおち
1cm弱の穴があいてしまった

何色の刺繍糸で
それを繕おうか
ぼんやりと考えるが
刺繍糸まではあまりに遠く
実際みてみないとそんなのわからない









2018年5月15日

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