煙草

煙草
荒木田慧の詩集 生活の詩より
詩集をたくさん抱えてうちに戻り
ベランダで煙草を2本吸う

これが燃え尽きたら私は
吸い殻を注意深く隠し
シャワーを浴び
精油を焚き
夫のペンハリガンを振り
かれの帰りを待たなければならない

(「煙草は浮気と同じ」という
かれ独自の超理論)

私が煙草を吸うのを知ると
かれは涙ぐんで怒り

私はもう二度と吸いませんと
同じく涙ぐんで誓う

誓うのはかんたんで

裏切るのはもっとかんたん

煙草は6本目の指と
そんなふうに言ったのは
どの女優だったか

かれにとっては
煙草はほかの男のペニスなのだなと
それを咥えながらかんがえる


こないだ

野良猫にエサをやっている住民がいるが
住みついて困るからやめろと

アパート全戸のポストに
管理会社から手紙が入っていた

私は
階下の女がエサをやっていたのを知っている

ガラガラ ベランダの扉をあけ
ザラザラ 皿にドライフードをいれ
カンカン 皿をたたいて猫を呼ぶ

顔も知らない女

私は猫なんか好きでも嫌いでもないが
いいぞどんどんやれ

二階から声援をおくる


町内放送が聞こえる
また痴呆老人がいなくなったらしい

身長165cmで...

中肉中背の...

皆 どこかへ行きたがっている

ちょっとした裏切り
小さな反抗
衝動的なショートトリップ

そういうものが
少しだけ今日も
わたしたちの息をしやすくする

極細のペニスはあっけなく燃え尽き
私はけむりをはたいて
あきらめたようなカオで
ベランダから日常に戻る









2018年5月1日

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