アル中のやさしい小父さん

アル中のやさしい小父さん
荒木田慧の詩集 ひとの詩より
叔父さんの友達の
やさしい小父さん

小父さんは猫が好きですが
自分では飼っていないので
叔父さんの飼っている猫を触りに
いつもふらりとやってきます

小父さんがくると叔父さんは
非常に嫌そうな顔をするのですが
結局はうちにあげて
一緒にお酒をのむので
私はへんなのと思います

(いつかはソファーで私が寝ていたので
小父さんは何も言わず
帰ってしまいましたっけね)

小父さんはうちの入り口のドアの
ペンキの剥がれたその跡が
猫の形にみえると言いました

叔父さんは小父さんのみえないところに行き
頭の横で人差し指をまわしました


桜が咲いた
ある暖かな昼下がり

叔父さんと
その友達のアル中の小父さんと
私は
めいめい自転車に乗り
三人連れ立って
近くの遊園地まで
お花見に行きました

満開のピンク色が
人混みを揺れる知らない人たち
全員の頰にひとしくうつり
そこにいた全ての生きものは
受けとめきれないほどの春の幸福に
困惑しているようにもみえました

公園には
こたつのたくさん並んだ
プレハブの屋台が出ていて
私たちはその一つに入りました

小父さんは焼きそばを
叔父さんはビールとおでんを頼み
私は缶ビールとポテトフライと唐揚げと焼きそばを頼みました

私と叔父さんがお酒をのむのを見て
小父さんもお酒を頼んだので
私は小父さんに
悪いことをしたような気がしました

小父さんがアル中であることを
忘れていたからです

小父さんはあかくなり
私は半分のビールで酔い
もう半分は
叔父さんにあげました

小父さんが断片的に語るむかし話が
近くなったり遠くなったりしながら
私のまわりをゆらゆらと漂い

それはいつのことなのか
ずっとむかしにおきたことなのか
ついさっきおきたことなのか
それともいまおきていることなのか
ほんとうにあったことなのかすら

私はわからなくなりました

そして
小父さんは確かに笑っているのですが
そのくせ確実に
泣いているようにもみえるのです

それを見ていると
私は無性にむしゃくしゃして
思い切り泣きたいような気分になりました

外では桜が狂っていて
春で生きものはみんな狂っていて

この簡素なプレハブの
生温いこたつの中に足を入れている
この間だけは
この間だけは
私もアル中のかなしい小父さんも
安全なように思いました











2018年4月23日

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