花どろぼう

花どろぼう
荒木田慧の詩集 ひとの詩より
美しいものをあの人は
盗まずにいられないのだ

たとえば開店祝いの花輪から
ピンクのアンスリウムを6本

プラスチックほど充血した
南国のその花を
浴槽に沈めてあの人は
どうぞお入りなさい、と言った

深夜、私は上気したそれらを
人質みたいに慎重に束ねて
ジャスミン茶のペットボトルに立たせる


美しいものをあの人は
盗まずにいられないのだ

たとえば飲み屋のカウンターから
他人あてのポストカードを

たとえば12月の店先から
林檎のついたクリスマスリースを

たとえばどこかの舗道から
若馬みたいに駆ける白い自転車を


美しいものの好きなあの人が
あんまり狡く
あんまり寂しげに盗むので

私はその肩先に落ちたかなしみや
ふたつの目の奥の強くくるしい光が
眩しくて、悔しくて涙が出る









2021年4月30日

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