たまご

たまご
荒木田慧の詩集 家族の詩より
わたしのひいおじいちゃんとひいおばあちゃん
おじいちゃんのお父さんとお母さんは
今からちょうど100ねん前
スペインかぜで死んだ

今の離れのとこに
むかし家があって

ふたつ並んだ布団で
隣どうし

お父さんがさきに死んで
死ぬまえ
布団から手を伸ばして
畳のうえのたまごを
お母さんのほうに
転がしたんだって

ころころころころ


(どうしてそんなとこにたまごがあったの)

(栄養がつくようにって
食べさせようと
誰かが持ってきたんでしょ)

(幾つで死んだと思ってるの)

(30前後だよ)

(30より前かもしれない)



まだ小さかったおじいちゃんは
ひとり
苦労して育ったんだって

親戚のうちで
恋しかったかな
死んじゃったお父さんお母さん


わたしのもう一人のひいおばあちゃん
わたしのおばあちゃんのお母さんは
韓国人だったといううわさ

せんそうのときに
日本に連れられて来て
でも、ひいおじいちゃん
おばあちゃんのお父さんには
ほかに奥さんと子供がいて
すてられて
母娘ふたりきりで
生きてきたみたい

だからわたしのおじいちゃんが
おばあちゃんをお嫁にもらったとき
ひいおばあちゃんもついて来て
三人
一緒に暮らしたんだって

それで六人の子供たちを
育てたの

(四ばんめ、
ひいおばあちゃんが
「この子はロクなもんにならない」
って言ったのが
わたしのお父さん)

(それでロクなもんじゃないわたしが生まれた)


おばあちゃんが病院で死んだとき
おじいちゃんは部屋で寝たきりだった

わたしが今いる
この部屋で

おばあちゃんが死んだこと
たぶん誰も
おじいちゃんには知らせなかった

悲しませたく
なかったから

おじいちゃんは死んだとき
おばあちゃんが死んだこと
まだ
知らなかったかな


今からちょうど100ねん前
畳のうえを
転がるたまご

ころころころ

ころころ

ころ









2019年1月27日

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