どうせグァテマラに逃げるし

どうせグァテマラに逃げるし
荒木田慧の詩集 心の詩より
大丈夫大丈夫
どうせグァテマラに逃げるし

コンビニに行くふうの格好で
雑誌の付録みたいな
しょっぱいトートバッグに
財布とパスポートだけ入れて
家を出て

隣のうちの小母さんに

「ああ今日もいいお天気ですね」

なんて
最後にえくぼ凹ませて

駅前のバス停で
国際空港行きのバスを待つあいだ
停留所の横の
伊藤園の自販機で
(それはコカ・コーラ社でもサントリーでもだめで絶対に伊藤園じゃなきゃいけない)
買った缶コーヒーの
表面の印字

「グァテマラ産の豆とタンザニア産の豆をブレンドしました」

先に書いてあったから
タンザニアじゃなくてグァテマラ

そのくらいの理由でよくて

グァテマラがどこにあって
なにがあって誰がいるのか
そんなことは
ここでは問題にならない

(どこにもなくて
なにもなくて
誰もいなければいちばん良い)

バスに乗って窓の外
後ろへ後ろへ流されていくものに
さよならさよなら
手を振っているうちにきっと
成田国際空港に到着

コピー機によく似たロビーの
つめたいカウンターに肘をついて
グラウンドスタッフの
黒々うねるアイラインの縁を
真っ直ぐ前に見つめながら
プロポーズみたいに切実に

「グァテマラまで」

(けして目を逸らさないで)

だから

大丈夫、今日の不誠実も
不均衡もめちゃくちゃも

グァテマラ

逃げてまただめになっちゃったら
プエルト・サン・ホセの駅前の
バス停の横の自販機で
もう一度缶コーヒー
買って
次の逃げ先を決めるし

(でもグァテマラにはたぶん
伊藤園の自販機は
ない)









2018年11月28日

他の心の詩