秘密

秘密
荒木田慧の詩集 生活の詩より
10月の午後5時すぎに
本町通りから
広瀬川にかかる橋を
ペダルに力を込めて
渡るとき

カワチ薬品の看板は
希望の塔みたいに
ひかって見えるのです

私は塔のいりぐちに
錆びついた自転車を停めて
買ってくるよう頼まれた
尿とりパッド(2回分吸収)と
午後の紅茶レモンティーを
えらんで
レジに並ぶ

左手に聖水
右手に盃を持って

黄金色の液体

母(美味しい)

黄金色の体液

尿とりパッド

生の喜びを濾過するとき
「母」というフィルターは
やはり黄金色にひかるのでしょう

できるだけ長く、強くと
願うか弱い彼女のため
今日までが期限の
黄色いクーポン券を
これ見よがしにレジに叩きつけ

10%割引

でも私の損ないは
10%の割引程度じゃ
もうとても補塡できないのです

とても
とても
......


(冷蔵庫から
ぶどうを5粒
出して)

うん

(ああそれより

悪くなるといけないから
食べないと
あるの知らなくって)

買ってこいと言うから
買ってきたんでしょう
この前

(そうだっけ
でも看護師さんに
剥いてもらうわけに
いかないでしょう)

剥かなきゃ食べられないようなもの
欲しがるのがいけないんじゃないの


梨を剥くくらい
なんでもないことで
なんでもないことの
ひとつひとつが
私にそろそろ
すこし重たい

ねえ腐るから食べるの
食べたいから食べるの

欲しいと言うから
買ってきたの

帰り道
病院側から見る
カワチ薬品は
希望の塔でもなんでもない
ただのつまんないドラッグストアで

(腐るから食べるの
食べたくなくても食べるの)

でも明日また
午後5時すぎに
本町通りから
広瀬川にかかる橋を
自転車で越えるとき
黄色くかがやく
希望の塔を
きっと私はそこに再び
見つけるのです

(腐っても生きるの
生きたくなくても生きるの)

損ない続けながら
クーポン券なんか
もう使えなくても









2018年10月5日

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