巡礼者たち

巡礼者たち
荒木田慧の詩集 生活の詩より
午過ぎの面会者用出入り口で
出くわした静かな行進

先頭をゆく
不安と恍惚の混じった男

灼けた腕のなかには
白い清潔な布にくるまれた
生まれたての赤ん坊

ベビーカーを押す年老いた女と
若い桃のような頰をした女が後に続く

神殿から歩み出る
巡礼者たち

決然と列は行く

壊れやすい宝物か
爆ぜやすい爆弾のような
授かりものを
こわごわ陽に掲げながら

私は一行をやわらかく一瞥し
しんとした回廊を奥へ進み
エレベーターを呼び
5階まで昇る

母のための祈祷室

外科のベッドはいっぱいで
なぜか産科のフロアの一室

甘い母性のにおいの漂う
淡いピンクの談話室

うまれてくる命を待つ
期待にみちたささやき声
並んだ椅子の背と同じ色に
ふんわりと光る彼ら

深い眠りにおちた母が
目を覚ますのを待つ私は
何色に見えるのだろう
紫か、藍か

ゆりかごのような
この階のベッドは
まだ歩けない人間と
もう歩けない人間のため
ひとしく平等に
整えられている

おぎゃあおぎゃあ、と鳴く
家へ帰りたい、と泣く

阿と吽が
狛犬のように
隣り合って

巫女たちは無感情に微笑み
ベッドの上の喜怒哀楽を
その黒い瞳に
ただ映し続ける

喜びも
悲しみも
ひとしく

いらっしゃい
いってらっしゃい


「いらっしゃいませ」

一階のコンビニで
自分のための夕食を買い
再度エレベーターに乗り込み

上昇

高く、酸素は薄く
大きなあくびが洩れ

疲れた、と空吠え

同乗した敬虔な小父さんが
口を押さえフフと笑ったので

すみません、と軽く頭を下げ
不信心者の私は
そそくさと箱舟を降りた

もうすこしだけ
祈ろう
誰かに、何かを

神殿の扉が閉まる
夜19時までのあいだ









2018年9月14日

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