街で

街で
荒木田慧の詩集 社会の詩より
まだ夏の残る夕暮れ
知らない街の駅前で
ドトールコーヒーの二階席の
大きな窓際に座って
一人ぼんやり
ロータリーを眺めていた


駅に向かう交差点の
みじかい横断歩道で
目の不自由な人がころんだ

杖がカランと
大きな音をたてた

奥にいた一人が
すぐに駆け寄って行った
手前にいた一人は
素知らぬ顔をして
そのまま通り過ぎた

駆け寄った人は
通り過ぎた人の背中に怒った

どうして見向きもしないのだと
倒れている人がいるのにと

通り過ぎた人は
浴びせられた怒声に
振り返りもせず
そのまま歩いて行った


二階から見ていた私は
通り過ぎた人は
もしかしたら
耳が
不自由なのかもしれないと思った


腰を支えられ
助け起こされた
ころんだ人は
助けてくれた
駆け寄った人に
お礼も言わないまま
軽く頭を下げて
そのまま歩いて行った

駆け寄った人は
ころんだ人の背中にも怒った

助けてやったのにと
礼くらい言えないのかと


二階から見ていた私は
ころんだ人は
もしかしたら
口も
不自由なのかもしれないと思った


駆け寄った人は
嫌な顔をして

世の中ろくなもんじゃねえな、
と電柱に吐き捨て

蹴るような足取りで
そのままどこかへ
歩いて行った


自分ができることを
ほかの人ができないからって
どうして怒るんだろ

二階から見ていた私は
ぬるくなったコーヒーを啜りながら
一人で顔をしかめた

あーやだやだ
私はぜったい
あんな風にはなるまいと


いつのまにか日が落ちて
青の降りた窓ガラスに
私が映っていた
私は私と目が合った

嫌な顔をしていた





駆け寄った人は
もしかしたら
心が
不自由な人だったかも
しれない


自分ができることを
ほかの人ができないからって
怒っていたのは私で

ころんだ人も
駆け寄った人も
通り過ぎた人も
二階から見ていた私も

みんな不自由なところのある
おんなじような生き物だと

うれしいような
さみしいような
くやしいような
へんな気持ちになって

椅子を引いて
よろよろと立ち上がって
トレイを持って
階段を降りて

もう完全に冷えてしまった
飲みかけのコーヒーを
カウンターに下げ
ごちそうさま、と
店を出て

9月の夜の藍を
オレンジにひかる駅へと
一人とぼとぼ
歩いて行った

転びもせず
駆け寄りもせず
振り返りもせず
そのまま









2018年9月8日

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