アンドレアのひきだし

アンドレアのひきだし
荒木田慧の詩集 ひとの詩より
アンドレアのしゃべる日本語は
コロコロところがる
やわらかくこぶりな鞠のようで
それは
牛乳みたいな白と
うすいカナリアイエローと
わたしのすきな
エメラルドグリーンの色をしている

彼女が出て行った部屋に
居候をしているわたしは
きょう
彼女の服を着ている

アンドレアの部屋の
アンドレアのたんすの
アンドレアのひきだしから
わたしが勝手にみつけた
アンドレアのTシャツ

薄手でぼんやりした
きょうの空と似たグレーの
胸にポケットとしみのついた
Tシャツ

縫製が悪くて
ところどころから
糸がとびだして

彼女の白くなめらかな肌に
きっとよく似合っただろうし
わたしの7月に灼けた
乱暴な小麦色の肌にも
よく似合う

ときどき
すこし離れた街へ越した彼女から
叔父さんの携帯に電話がかかってきて
きょう
アンドレアがわたしの名を呼んだので
電話に出た

おかあさん びょうき?

アンドレアはやさしい
わたしより若くて
美人でやさしい

わたしが去年
落ちていたとき
自分が故郷で
同じように落ちていて
そこからどうやって這い出したか
わたしの前にすわって
教えてくれた

19で故郷をとびだして
めちゃくちゃ遠い国の
だれも知らない街に来て
すがたも言葉もちがう男たちに
酒を注いで金を稼いで

あなたはどれだけ
泣いたのでしょう

アンドレアのTシャツを着て
アンドレアの声を聞いた
タフになりたいわたしは
この夏のあいだじゅう
あなたのTシャツを着ることにします

あなたがひきだしに
忘れて行ったそれを
忘れたかったそれを
勝手にひっぱりだしたわたしは
それがボロボロになって
もうダメになるまで
責任をもって
わたしの着る番を
果たすことにします









2018年7月26日

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