あかるい穀潰し入門

あかるい穀潰し入門
荒木田慧の詩集 生活の詩より



あのねえ
振り返ってみれば
学校を出てから
正社員を3回やりましたが
擬態はせいぜい
1年半が限度で
そのたびそのたび
死にたくなってしまうので
死なないために
生きてゆくために
正社員はあきらめました

社会が
良いものだ良いものだという
正社員というもの
さぞや良いものであろう、と
やってみましたけれども
わたしには毒でしかなく
給与の安定や
保障や保険や
決められた休暇や
資本への帰属は
わたしの胡乱な精神を
ほとんどだめにしてしまった

ならば男にすがって生きるかと
専業主婦になってみたけれど
学生から公務員になった男は
やっぱり安定してしまって
平凡で退屈で
週末の旅行や散策など
わたしにはどうしたって無味乾燥

ああ
将来が
みえない!

不安定で
流動するものの
刹那的なうつくしさが
わたしはみたい!

なので主婦からも脱落し
穀潰しにジョブチェンしました

ああ
これ天職!

正社員になんかなったことない
なりたいと思ったことすら多分ない
わがまま自由な叔父さんと
五匹の汚い猫たちと
ねぐらのように不潔な家で
毎日だらだら暮らしています

目が覚めたら起き
腹が減ったら食い
書きたくなったら書き
歌いたくなったら歌い
歩きたくなったら歩き
描きたいものがあれば描く
話したくなったら声をかけ
そんで眠たくなったら寝る
何時だって寝る

帰りたくなかったら
帰らなくたっていいし
帰りたくなったら
いつでも戻ればいい

朝っぱらから
へたくそなギター
かき鳴らしてたって
なんとも言われないし
昼過ぎまで寝てたって
わたしもやっぱりなんとも言わない

ああ なんという デカダンス

お互いほとんど興味がなく
お互いあんまり干渉しないわりに
脱衣所のドアも無いので
シャワーのとき脱げば
庭まで裸が丸見えなのだが
叔父さんとわたしは
肉体や性別など
ただの記号だと知っている

朝8時台
煙草を買ってくるというので
紙みたいな味のする
ウィンストンの1mgロングを頼み
叔父さんは小さな安いワインボトルも下げて戻る
ふたりで長い映画を観るが
わたしはそれすら集中できず
眠たくなってしまい
仲の良い猫とならんで
しばらく昼寝した

起きたら歌いたくて
線香もろくにあげない仏壇に
iPhoneを置いてタブ譜をみながら
てきとうなギターに合わせ熱唱
(おじいちゃんおばあちゃんきこえますかそこは天国ですか)

高校生のいもうとが
3箇所でアルバイト
しているときに
安物のビニールサンダルで
3時間
狛犬を探し歩く

いもうとが土日にバイトしてる
おしゃれで美味いドーナツ屋
おねえちゃん面したくて
差し入れ持って行ったら
いもうといなくて
「ばいとなんじから?」
「今日学校だよ〜!💦」
月曜日でした…

サンデー毎日なおねえちゃんで
ごめんね!!!

ハローワークでも行ってみるかと
スケッチブックとクレヨン持って行って
絵にもならなそうな
つまんない建物だったので
がっかりして帰って来た

ネットで調べるのは
求人情報よりも
カブトムシの捕り方で
(ベストシーズンは7月中旬から8月中旬)

セブンイレブンでもらってきた
タウンワークに
農家の手伝い ナスの採集
という
おもしろそうな求人をみつけたが
自動車をもっていないわたしはあきらめる

免許はとったが
わたしはたぶん
父方の血の遺伝性の
かるい強迫神経症の
強迫行為よりも
強迫観念
それの加害恐怖がつよく
そういう人は
自分が気づかないうちに
車で誰かを轢いたのではないかと
同じ道をなんどもなんども走って確認する
というのを読んで
わたしもきっとそうなるから
乗らずにいる

だいたい
せいぜい1250gほどのこの脳では
身長165cmのわたしの肉体ですら
ほとんどコントロール不可なのに
あんな大きな鉄の塊
みんなどうやって動かしているのか
道をゆく車をみるたび
不思議で劣等感をおぼえる

たぶん不安のあまり
電柱に突っ込んで
自爆しそうな気がする

だから自動車には乗らない
自転車もあまり乗らない

わたしはこの二本の脚で
どこへだって行ける
だいたいのところへ

そして歩きながら歌う

ああ穀潰し穀潰し
わたしはあかるい穀潰し

金はないけど夢はある
夢では腹は膨らまない

いざとなったら高架下!

と思っていますが
女のホームレスは
どうしたって惨めで
どことなくカッコイイ
男のホームレスとは違うので
やっぱりわたしは
男が羨ましいです
(これはなんでなのか
目下考え中)

どうしたって売れちゃう

というものが
わたしは悔しい
悔しい悔しい
だって金より自由がほしいんだもん

女はホームレスには向かないかもだけど
穀潰しにはなれる
Wikipediaにのるような
あかるくかわいい
立派な穀潰しに
わたしはなりたいです









2018年6月13日

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