他人の服を着る

他人の服を着る
荒木田慧の詩集 生活の詩より
着る服がないので
母が持ってきた段ボールの
愛憎地獄のような
姉の古着の塊から
わずかな希望の感じられるものだけを
えらんだ

黄色い小花柄のフォークロアな
羽みたいに軽いブラウス

980円くらいのタグのついた
オーバーサイズの水色シャツ
(裾にボタンがついててカシュクールにもなる、小賢しい)

ヒッコリーデニム様の薄いブルーのストライプのズボン

黒のテーパードパンツ

電子音みたいなミントブルーのスポーツバッグ
(ひも短くしてたすきがけしたらアクセントになるか)

これもタグ付きデニムのルートート
(ふつうに持たないでくしゃっと袋みたいに掴んだらなんとか)

あと寝巻き用に母のTシャツとか短パンとかいくつか
(そのなかの一枚のTシャツ
二匹の猫の絵のやつはあまりにも地獄で
魂が絶叫したので返却した)
(あんな当たり屋みたいな服
いったいどこで売っているのか
きっとフリーマーケットだろう)

それらと

叔父さんの
ポロシャツとか

そういうのも組み合わせて毎日着る

きのうの夜さむくて
上に着るもんがなくて
叔父さんの引き出しあさって
しわくちゃなさざ波のなかから
グレーのヘンリーネックの
長袖カットソーを救出した

叔父さんの服はだいたい
金持ちの伯父さんからのお下がりで
叔父さんは無頓着だから
ただてきとうにそれらを着ているが
このグレーのカットソーは
伯父さんにも叔父さんにも小さすぎるので
もしかしたら叔父さんの2人目の奥さん
しなやかな若い女 東欧の狡くて気の優しい女
あの女が置いて行ったんじゃないかと思う
AVIREXの
中国製の
生地がしっかりして
肌触りのいいやつ

でわたしはそれを着て寝て
けさ下に
寝巻き用のベージュの短パン
グラミチみたいなナイロンベルトのやつ
をはいて
108円の
南の島の鳥みたいに黄色い
おもちゃっぽいスポーツウォッチをつけて
家からはいてきた
ナイキのピンクのランニングシューズ
それじゃなくて
数日前300円で買った
ゴム製のしろい紙飛行機みたいなパンプスそっちをはいて出かける

帽子をかぶりたかったが
帽子みたいな髪をしていたのでやめた

家から着てきた気に入りの
イエローカーキの
ちょっとミリタリーみたいなナイロンコートは
もうそろそろ暑くて

ちぐはぐで
ださいのかもわかんないけど
わたしはこれでやっと
バランスが
とれる

さいきん他人の服を着るとき
シャツはボタンあけて
肩がみえるくらいゆがめて
ズボンの裾はよけいに折り
そわそわとシャツの裾を入れ
やる気もないのに袖を捲る

脱げそうなシャツとか
抜きすぎた襟とか
たくしこんだ裾とか
捲り上げた袖とか
そういう
心許なく
よたよたしたもの

アンビバレントな不安みたいなものを
身につけ
やっとすこし強くなったきがして

行くところは
セブンイレブンか
スーパーか
田んぼとか山の古墳
北の小学校 神社
でも
遊園地までだって歩いていける

ちょっと前まで
自分で選んで
自分で買った
自分の服さえ
こんな風には
着られなかったのに

他人の服の
着心地の良さが
不思議で

軒先で洗濯物を干していたら
隣の小母さんが
ブロック塀ごしに話しかけてきて
11時に弁当をつつんで
うちに持ってくると言った

おせっかいでさみしいやさしい小母さん
その小母さんのブラウスや
スラックスや
雑多なサンダルとか
そういうのだって
きっと今なら
今ならわたし
うまく着られる
わたしらしく着られる









2018年6月1日

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